○人吉市手話言語の普及及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する条例
令和5年3月22日
条例第15号
言語は、お互いの感情を分かり合い、知識を蓄え、文化を創造する上で欠かすことができないものであり、人類の発展に大きく寄与してきた。
手話は、音声言語とは異なる語彙及び文法体系を有し、手指や体の動き、表情を使って視覚的に表現する言語である。
ろう者は、物事を考え、コミュニケーションを図り、お互いの気持ちを理解し合うこと、また、知識を蓄え、文化を創造するために必要な言語として手話を大切に育み、守り、受け継いできた。
しかしながら、手話は、ろう教育において読唇と発声の訓練を中心とする口話教育が導入されたことにより、長年にわたり言語として認められてこなかった。
このため、手話を使用することができる環境の整備が十分になされず、ろう者は必要な情報を得ることやコミュニケーションを図ることが困難であり、多くの不便や不安を感じながら生活してきた。
こうした中、平成18年の国際連合総会で採択され、平成26年に我が国も批准した障害者の権利に関する条約において、手話は音声言語と同じく言語であることが国際的に認知されることとなった。
また、平成23年に改正された障害者基本法(昭和45年法律第84号)において、すべての障がい者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大を図ることが規定された。
このような状況にもかかわらず、手話が言語であることの理解及び障がいの特性に応じたコミュニケーションの手段を選択することができる環境の整備が十分に進んでいるとは言えない。
よって、ここに人吉市は、手話が言語であることを普及し、障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進を図ることにより、すべての市民が障がいの有無によって分け隔てられることなく、お互いの人格と個性を尊重し合いながら、安心して暮らすことのできる共生社会の実現を目指して、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であることの普及及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進についての基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、市の施策を総合的かつ計画的に推進し、もってすべての市民が障がいの有無にかかわらず、人格と個性が尊重され、安心して暮らすことのできる共生社会の実現に寄与することを目的とする。
(1) ろう者 聴覚に障がいのある者であって、手話を言語として使用し、日常生活及び社会生活を営むものをいう。
(2) 障がい者 身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む。)、難病その他の心身の機能の障がい(以下「障がい」と総称する。)がある者であって、障がい及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
(3) 社会的障壁 障がい者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となる社会における事物、制度、慣行、概念その他一切のものをいう。
(4) 障がいの特性に応じたコミュニケーション手段 手話、要約筆記、筆談、点字、拡大文字、音訳、代読、代筆、触手話、指点字、代用音声(喉頭摘出等により使用するものをいう。)、平易な表現、絵図、コミュニケーションボード、重度障害者用意思伝達装置その他障がい者が日常生活又は社会生活において使用する意思疎通を図るための手段をいう。
(5) 合理的配慮 障がい者が日常生活又は社会生活において、障がいのない人と同等の権利を行使するため、個々の場面において社会的障壁を除去するための必要かつ適切な現状の変更及び調整等を行うことをいう。
(6) 事業者 市内において事業活動を行う個人又は法人その他の団体をいう。
(基本理念)
第3条 第1条に規定する共生社会を実現するため、次に掲げる事項を基本理念とする。
(1) 手話言語の普及は、手話が音声言語とは別の独自の体系を有する言語であって、ろう者が知的で心豊かな日常生活又は社会生活を営むために大切に育み、守り、受け継いできた文化的所産であるものと認識した上で行わなければならない。
(2) 障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の選択の機会の確保と利用の機会の拡大は、すべての市民が、様々な障がいの特性によるコミュニケーション等の困難さがあることを理解し、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重することを旨として行わなければならない。
(市の責務)
第4条 市は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という)に基づき、手話言語の普及及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する施策を推進するものとする。
2 市は、その事務又は事業を行うに当たり、障がいの特性に応じたコミュニケーション手段を利用できるようにするための必要かつ合理的な配慮を行うものとする。
(市民の役割)
第5条 市民は、基本理念に対する理解を深め、市が実施する手話言語の普及及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、基本理念に対する理解を深め、市が実施する手話言語の普及及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障がいの特性に応じたコミュニケーション手段を利用できるようにするための必要かつ合理的な配慮を行うものとする。
(施策の推進)
第7条 市は、第4条の規定に基づき、次に掲げる施策を推進するものとする。
(1) 手話が言語であることの理解の促進及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の普及に関する施策
(2) 障がいの特性に応じたコミュニケーション手段を利用しやすい環境整備に関する施策
(3) 障がいの特性に応じたコミュニケーション手段による情報提供に関する施策
(4) 障がいの特性に応じたコミュニケーション手段を支援する者の確保及び養成に関する施策
(5) 障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用を必要とする障がい児及びその保護者等への支援に関する施策
(6) 災害時における障がいの特性に応じたコミュニケーション手段による情報の取得及び利用の支援に関する施策
(7) 前各号に掲げるもののほか、この条例の目的を達成するために必要な施策
2 市は、前項に掲げる施策を推進するに当たり必要があると認めるときは、障がい者その他関係者から意見を聴取するものとする。
(財政上の措置)
第8条 市は、手話言語の普及及び障がいの特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(委任)
第9条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
附則
この条例は、令和5年4月1日から施行する。